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形と空間を決める基準尺
建築や家具を設計する際に、ある決まった寸法を基準に設計します。その基本となる基準寸法を「モデュール」といいます。
モデュールの寸法は、その国の伝統的な寸法の単位や建築技術、そして建築家によって変わります。我が国は古くから910mm×910mm〔3尺×3尺〕(*1)が伝統的に使われてきたため、建築ばかりでなく建材も、その寸法で製品化されています。(*1):尺モデュール。現在はメーター・モデュール1m×1mも使われています。
「近代建築の5原則」を提唱した、著名なスイス人建築家ル・コルビュジェは、独自の尺度「モデュロール」を用い、家具や建築、さらには都市計画にまで応用して設計しています。今さらながら感心・感動します。また、実証し名建築を残してくれたことに感謝します。
興味のある方は、鹿島出版会からでているSD選書で、ル・コルビュジェ(著)、吉阪隆正(訳)の「モデュロールⅠ」・「モデュロールⅡ」を読んでみて下さい。
人間の身体寸法が建築の基準となる
「起きて半畳、寝て一畳」という格言があります。これは言葉の通り、人が寝る時に必要となる広さは一畳分。立っている時や座っている時などは半畳分といった、尺モデュールでの生活スペースを分かりやすく表した言葉です。また、立った場合も同様で戸の高さは6尺、戸の幅は肩幅などが基準とされます。(現在の日本人は背が高くなってきているのでメーターモジュールもありですね)
建築は人間が快適に過ごすための器です。家族が団らんするリビングや身体を休めるための寝室の広さは、人間の寸法、そして動きと深く関わっています。広すぎては落ち着きのない空間になり、狭すぎても機能を満たすことはできません。空間も家具も使う目的に応じて、形も大きさも変化してきます。
基準となる寸法は国によって異なり、アメリカの「フィート」は足の長さ(*2)が基準となり、日本の「尺」は腕の尺骨(*3)の長さが基準となっているように、人間の身体の部位の長さが基本となっていることが多いのです。
(*2):足のつま先から踵肘までの長さ30.48cm
(*3):手首から肘までの長さ30.3cm
例えば書斎では机で手紙を書く、本を読むといった具体的な用途と、それに伴う動作によって空間の広さが決定されます。また、部屋は一つの用途だけでなく、多くの用途に対応しなければならない場合が多いため、書斎なら手紙を書く行為だけでなく、書棚の本を取り出す、しまうの動作スペースが必要になります。これを複合動作空間といい、重要です。
また、一人で使用する空間ばかりではなく、複数の人間が多様な行動を起こすようなケースもでてきます。キッチンでの調理を母親だけでなく、娘や夫とともに行う家庭の場合、刃物や火を扱うキッチンでは特に空間の広さや動作空間などを慎重に考えなければなりません。
まずは、自分の身体の寸法を知ることから設計は始まります。建築は人間が、その中に入って行動するため、人間の寸法の他に動く範囲の広さが必要で、その空間の中での用途に合った動作空間の大きさが重要となります。さらに、自分自身の寸法の他に男女の体格の違いや平均的な基本となる寸法を把握しておくことも役立つでしょう。
建築に限らず、ものの形や大きさは人間の寸法を基本につくられています。常識だと思われるでしょうが、この基本的な人間的尺度、ヒューマン・スケールをいつも意識しておくことが大切です。
参考図書
「世界で一番美しい建築デザインの教科書」
著 者:鈴木敏彦 松下希和 中山繁信
発行者:澤井聖一
発行者:株式会社エクスナレッジ